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東京高等裁判所 昭和36年(ネ)2367号 判決 1963年2月20日

控訴人 山崎和夫 外二名

被控訴人 峯村甚造

主文

当審における被控訴人の新たな請求原因に基き、控訴人らは連帯して被控訴人に対し、金四六万円およびこれに対する昭和三五年七月一三日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人らの連帯負担とする。

この判決は、被控訴人において金一五万円の担保を供するときは、仮りに執行することができる。

事実

控訴人ら代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張および証拠の関係は、次に付加するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

被控訴代理人は、末尾添付別紙準備書面記載のとおり陳述し「(一)、当審においては、控訴人らに対し、(1) 第一次には、本件売買契約の解除を理由とする原状回復義務の履行を求め、(2) 予備的に、本件売買契約が控訴人らの責に帰すべき事由により履行不能となつたことを理由として履行に代わる損害賠償を、またもし右履行不能の事実が認められないときは、控訴人らが昭和三三年八月一二日被控訴人に本件売買代金の返還を約したことを理由としてその支払を求めるものである。(二)、原審において主張した詐欺を理由とする不法行為および不当利得の請求原因は、いずれも撤回する。(三)、本件売買契約成立当時、控訴人らおよび被控訴人は、いずれも材木商を営む商人であつた。(四)、控訴人らの別紙準備書面記載の事実中、被控訴人の主張に牴触する部分は、これを争う。被控訴人は控訴人らから本件立木の引渡を受けなかつたものである。」と述べ、

控訴人ら代理人は、「(一)、被控訴人の前掲(二)の請求原因の撤回に異議はない。(二)控訴人らおよび被控訴人が、いずれも材木商を営む商人であることは認める。(三)、被控訴人の別紙準備書面記載の事実中、第一項は認める。同第二項のうち、本件立木の所在地番が被控訴人主張のとおりであり、かつ本件立木の売買契約の当時、右土地が訴外柳沢忠頼の所有であつたことはいずれも認めるが、その余の事実は否認する。控訴人らは本件立木売買契約の際、被控訴人と共に現場において毎木調査をなし、本件立木を被控訴人に引き渡したものである。同第三項は争う。」と述べ、かつ末尾添付別紙準備書面記載のとおり陳述した。<証拠省略>

理由

一、控訴人らが昭和三三年八月四日被控訴人に対し、被控訴人主張の地盤に生立する本件立木を代金四七万円で売り渡し、即日被控訴人から右代金全額を受領したこと、右売買に際し控訴人らは被控訴人に対し、本件立木については他から故障が起きることはなく、伐採搬出についてもなんら支障のない旨を保障確約したこと、本件立木およびその地盤は、いずれも元訴外柳沢忠頼の所有であつたが、同人は本件立木のみを訴外山本清重に売り渡し、次いで控訴人らは右立木を山本から買い受けた上前記の如くこれを被控訴人に売り渡したものであること、以上の事実は当事者間に争がない。

しかして、成立に争のない甲第三号証、同第四号証の一ないし四、同第五号証、当審証人峯村忠治の証言により成立を認め得る甲第六号証、原審および当審証人唐木田隼人、当審証人柳沢忠頼、同峯村忠治の各証言、並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。すなわち

前記立木の売買については、これを順次買い受けた山本、控訴人三名および被控訴人は、いずれもその所有権取得に関する立木登記および明認方法の手続をなんら講じなかつたものであること、他方前記柳沢忠頼は、昭和三二年六月一七日本件立木を訴外唐木田隼人に対し、代金を三〇万円と定め、同年七月三一日までに買い戻し得る特約付で売り渡したところ、柳沢は右期間を徒過し買戻権を喪失したこと、唐木田は右立木の所有権の取得につき登記および明認方法の手続は講じなかつたが、右買受当時その引渡を受け、次いでその後昭和三五年五月柳沢の承諾を得て本件立木を伐採搬出してこれを他に処分してしまつたこと、本件立木の地盤のうち、墓地二四歩を除くその余の土地は、当初、登記簿上も柳沢忠頼の所有名義であつたが、本件立木が採伐搬出されたのち、昭和三五年中被控訴人主張の如く第三者が右土地の所有権を取得してその登記を経由しており、また右墓地は、当初から今日に至るまで訴外柳沢亀治、同戸谷雄志の両名の共有名義の保存登記がなされた侭になつていること、

以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

二、よつて次に、被控訴人の主張する本件立木売買契約の解除の適否について考察する。

(1)、元来、立木は当事者の意思表示のみによつて、地盤と独立してその所有権を他に移転し得るものであるけれども、右所有権の移転については、立木の登記または明認方法の手続を採らない限り、第三者に対抗し得ないものであることはいうまでもない。ところで前記判示の事実関係によれば、本件立木については、控訴人ら三名は、柳沢忠頼から山本清重を経てその所有権を取得したものであるけれども、右所有権の取得については、なんら登記および明認方法の手続を採らなかつたのであるから、控訴人ら三名の右立木所有権の取得は、第三者たる唐木田に対抗し得ない筋合のものであり、したがつて、控訴人らと被控訴人間の本件立木の売買契約は、結局、控訴人らにおいて自己の所有であることを第三者に対抗し得ない立木を被控訴人に売り渡したという関係になるというの外ない。しかして、かように売主が、自己の所有であることを第三者に対抗し得ない物を売り渡した場合は、恰かも他人の権利をもつて売買の目的となした関係と類似しているから、右の場合、買主がその所有権を取得することが不能となつたときは、民法第五六一条の類推適用により買主は、契約の解除をなし得るものと解するのが相当である。(大審院昭和一二年九月一七日言渡、民集一六巻一、四二三頁所載の判決の趣旨参照)。尤も、本件の如き立木の売買の場合においては、買主たる被控訴人は、売主たる控訴人らの協力をまつまでもなく、単独で当該立木に明認方法を施すことができ、かくすることにより対抗力を取得し得べきわけであるが、しかし、かかる事情は未だ当然には本件売買に民法第五六一条を類推適用することの妨げとなるものではないと解すべきである。けだし、右の場合、控訴人らが被控訴人に完全な権利を取得させる方法としては、控訴人ら自身が先ず自己のため右立木につき登記または明認方法を採るべき途が残されているのであり、控訴人らが、かかる手続を採らないで本件立木を売り渡したのは、被控訴人に対し完全な権利を給付したものとはいい難く、したがつてこの場合被控訴人がその所有権を取得することが不能となつたときは、これに右契約の解除権を認めても、必しも控訴人らに不当に苛酷であるとは認められないし、他面、被控訴人に解除権を認めるといつても、もし被控訴人の右立木所有権の取得が不能になつたことが、被控訴人の信義違背の行為に基くと認められるような場合(大審院昭和一七年一〇月二日言渡民集二一巻九一三頁の判例参照)、または被控訴人が自己の責に帰すべき事由により明認方法を施さなかつたため本件立木の所有権を喪失しこれを控訴人らに返還し得なくなつたような場合(民法第五四八条第一項参照)には、被控訴人の解除は許されない都合になるのであつて、結局、以上の如く解するのが、民法第五六一条の目的とする信義衡平の精神に適合するものと認められるからである。

されば前記判示の如き事実関係の下においては、被控訴人の本件立木所有権の取得が不能となつたことにつき、被控訴人の責に帰すべき事由その他信義違背の行為があつたというような特段の事由がない限り、被控訴人は民法第五六一条の類推適用により、控訴人らに対し本件売買契約の解除をなし得るものというべきである。

(2)、ところで控訴人らは、この点に関し、「本件売買がなされた当時、唐木田は右立木になんらの明認方法を施していなかつたから、被控訴人は適法にこれを伐採し、少くとも明認方法を施すことができたわけである。しかるに被控訴人は、控訴人らから本件立木の引渡を受けながら、なんら右の如き措置を採らず、適当な管理もしなかつたため、本件立木は唐木田に伐採搬出されてしまつたものであり、その責任は被控訴人にある」旨主張するので、次にその当否につき判断する。

成立に争のない甲第一号証、前顕甲第六号証、成立に争のない乙第一号証、原審および当審証人唐木田隼人、同柳沢忠頼、同峯村忠治、原審証人窪田秀次、同松林光幸、当審証人山本友吉、同山本清重の各証言並びに原審および当審における被控訴人(原告)峯村甚造本人尋問の結果によれば、次の事実を認めることができる。すなわち、

本被控訴人は、前記の如く昭和三三年八月四日控訴人らから本件立木を買い受け、その際控訴人らは被控訴人に対し、万一右立木につき他から故障が起きたときは、控訴人らにおいて責任を持ち被控訴人に迷惑をかけない旨確約したものであるところ同日夜に至り、被控訴人は右売買の仲介人であつた訴外窪田秀次から、右立木は当初の所有者であつた柳沢忠頼が、すでに他に担保に供しているため伐採できないものである旨を聞知したこと、被控訴人は驚き早速調査したところ、右立木はすでに柳沢忠頼から唐木田に譲渡ずみであり、現に控訴人らの前主である山本の義弟松林光幸が、さきに山本の委託を受けて一旦これを伐採しようとしたが、すでに唐木田に譲渡ずみであることを知り伐採を断念した事実があつたことを聞知し、かつ直接柳沢から、本件立木は唐木田に譲渡ずみであるから伐採できない旨聞かされたこと、そこで同月六日被控訴人は、控訴人らに対し本件売買契約の解除およびすでに支払つた本件立木代金の返還につき折衝したところ、控訴人らは被控訴人に対し、前主である山本も交渉の上もし山本から代金の返還を受ければ、被控訴人に本件代金を返還すべき旨を約したこと、他方、本件立木の引渡については、当初本件売買契約締結の際の約束では、被控訴人がこれを伐採するときに引渡を受けるという約旨になつていたのであるが、右の如き問題が発生したため、被控訴人は控訴人らから遂に本件立木の引渡を受けるに至らなかつたものであること、被控訴人は控訴人らから当然本件売買代金全額の返還を受け得るものと信じ、その後もしばしば控訴人らに対し右代金の返還を要求して来たが、これに対し控訴人らは右返還義務がないというようなことは別段主張せず、単に前主山本との関係が未解決であるというような理由で、その侭推移しているうち、遂に昭和三五年五月前記の如く唐木田が本件立木を伐採搬出してしまつたものであること、

以上の事実が認められる。原審および当審における控訴人(被告)中村幸雄本人の供述中、右認定に牴触する部分は採用し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

しかして右認定の事実関係によれば、被控訴人が本件立木を買い受けた後、これが伐採をなさず、かつ明認方法を施さなかつたのは、当時の経緯に照らしなんら信義違背の行為であるとは認め難く、また唐木田が本件立木を伐採搬出してしまつたことが被控訴人の責に帰すべき事由に基くものであるということもできない。それ故、この点に関する控訴人らの前記主張は採用できないものである。

(3)、ところで、被控訴人が昭和三七年四月三〇日の本件口頭弁論において、控訴人に対し本件売買契約解除の意思表示をしたことは、当裁判所に顕著であるから、遅くとも同日本件売買契約は解除の効力を生じたものというべきである。(なお、被控訴人は、これよりさき、昭和三三年八月一二日控訴人らに対し契約解除の意思表示をしたと主張しているが、当時においては、唐木田は未だ本件立木を伐採しておらず、かつ明認方法も施していなかつたから、その頃、被控訴人の本件立木所有権の取得は未だ必ずしも不可能な状態にはなかつたものと認められしたがつてかかる際、合意解除をなすのは格別、一方的に解除をしても、未だ当然にはその効力を生じないものというのが相当である)。

しかして本件契約が右の如く解除されたものである以上、控訴人らは被控訴人に対し、さきに被控訴人から受け取つた代金四七万円中、被控訴人が返還を受けたことを自認する金一万円を控除した残額四六万円に、右代金受領の時からの利息を付して返還すべき義務があるものというべく、しかも本件売買契約締結当時、控訴人らおよび被控訴人がいずれも材木商を営む商人であつたことは当事者間に争がないから、右売買契約は商行為に属し、したがつてこれが解除に基く前記代金返還義務については、控訴人らは連帯してその責に任ずべきものである。

三、控訴人らの相殺および同時履行の抗弁について、

控訴人らは、「被控訴人は、控訴人らから本件立木の引渡を受けて保管中、唐木田に本件立木を伐採搬出されてしまつたのであるから、控訴人らに対し、右立木の価額四七万円を返還すべき義務がある」旨主張するけれども、被控訴人は控訴人らから本件立木の引渡を受けた事実がなく、また唐木田が本件立木を伐採搬出したことは、なんら被控訴人の責に帰すべき事由に基くものといえないことは、すでに説示したとおりであるから被控訴人は控訴人らに対し、なんら右立木の価額の返還義務はないというべきである。それ故、被控訴人に右価額返還義務のあることを前提とする控訴人らの相殺および同時履行の抗弁はいずれも採ることを得ない。

四、なお控訴人らは、「仮りに控訴人らが被控訴人に本件代金返還の義務があるとしても、昭和三三年八月一三日、右当事者間において、控訴人らは単に金一三万円を分割して支払えば足りる旨の合意が成立した」ものの如く主張するが、右の如き合意が成立したことを認めるに足る適切な証拠はないから、控訴人らの右主張も採用できない。

五、以上の次第であるから、控訴人らに対し、本件契約解除を理由として金四六万円およびこれに対する控訴人らが本件代金を受領した日の後である昭和三五年七月一三日以降完済に至るまで年五分の割合による金員の連帯支払を求める被控訴人の本訴請求は正当として認容すべきである。しかして契約解除を理由とする被控訴人の右請求は当審に至り初めて提出されたものであり、原審における請求とは訴訟物を異にするのであるからたとえ当裁判所の言い渡す判決主文が原判決の主文とその文言が同一であつても、当裁判所においては控訴棄却の判決をなすべきではなく、あらためて被控訴人の請求を認容する判決をなすべきものであることは当然である。(なお、当審において被控訴人は第一次の請求原因として前記の如き契約解除を主張しかつ従前原審で主張した請求原因を予備的請求原因に改めたのであるから、当審における前記第一次の請求原因に基く請求が認容される以上、予備的請求原因に基いてなされた原判決主文は、本判決により当然失効するものというべきである。)

よつて訴訟費用につき民事訴訟法第八九条、第九三条第一項、第九五条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 田中盈 土井王明 今村三郎)

別紙

被控訴代理人の準備書面

一、被控訴人昭和は三十三年八月四日本件立木を控訴人等と売買契約を締結して代金四拾七万円を支払つた。本件立木は訴外柳沢忠頼の所有するところであるが同人より訴外山本清重に訴外山本より控訴人等に順次譲渡契約が締結せられ控訴人等は本件立木につき他より故障が起きず伐採搬出について支障がないことを保障したものである。

二、控訴人等と被控訴人と本件立木の売買契約を締結した昭和三十三年八月四日当時本件立木は訴外柳沢忠頼所有の左の山林に存したものである。

(一) 長野県更級郡信更村大字山平林字外山沖四二四四番地 山林一四反四畝一六歩

(二) 長野県更級郡信更村大字山平林字外山沖四〇五二番地の二 山林三畝一六歩

(三) 長野県更級郡信更村大字山平林字外山沖四〇九四番地 山林一反四歩

(四) 長野県更級郡信更村大字山平林字外山沖四一一一番地 墓地、弐拾四歩(甲第四号証ノ一乃至四参照)

即ち本件立木は前記不動産の一部であつたのであるから控訴人等は本件立木を訴外柳沢忠頼より権利を取得して被控訴人に所有権を移転すべき義務あるところ既に訴外柳沢忠頼に於て訴外唐木田隼人に対し売渡担保として売渡し其の所有権を譲渡した(右売渡担保契約には、柳沢において買い戻し得る旨の特約があつたが、昭和三二年七月三〇日買戻期間の経過により買戻権は消滅し、本件立木は確定的に唐木田の所有となつた)ので控訴人等は其の権利を取得出来得なかつたのである。被控訴人は本件立木売買契約期日の翌日即ち昭和三十三年八月五日訴外松林某より本件立木の所有権者は訴外柳沢でなく伐採不可能なる旨を聞き驚いて訴外柳沢に交渉したる処本件立木の伐採を拒否せられるに至つたのであつて控訴人等は本件立木を被控訴人に対し現実に引渡し又は立木法に基く移転登記手続をなすべき義務あるところ控訴人等は訴外柳沢より本件立木の所有権を取得して被控訴人に対し引渡又は立木の所有権移転登記手続の不能なること明白となつたので被控訴人は控訴人に対し右立木の引渡を求めて来たけれ共履行出来ず已むを得ず同月十二日控訴人等に対し本件立木売買契約の解除を通告し控訴人等は原状回復として本件売買代金を返還すべき義務あり控訴人等も亦之を承諾し取得した売買代金を返還することを約したものである。

三、仮に昭和三十三年八月十二日履行不能により売買契約が解除されなかつたものとするも控訴人等は本件立木の所有権を訴外柳沢より取得して被控訴人に移転すべき義務あるところ本件立木は訴外唐木田に於て売渡担保契約による所有権を取得して昭和三十五年五月代採して他に処分し且つ本件立木の存する山林一四反六歩は昭和三十五年十月十日競落によつて所有権は訴外下平安定に(甲四号証ノ一参照)、山林三畝十六歩は昭和三十五年十一月一日売買によつて所有権は訴外柳沢今朝善に(甲第四号証ノ二参照)、墓地弐拾四歩は訴外柳沢亀治並に訴外戸谷雄志の共有に属するものであり(甲第四号証ノ四参照)、山林壱反四歩は昭和三十五年九月十九日売買によつて所有権は訴外 田参栄に(甲第四号証ノ三参照)各々所有権は移転し之が登記手続を経由してゐるので控訴人等は之が権利を取得して被控訴人に移転するの契約の履行不可能と立至つたものであるから茲に本件立木の売買契約を解除する。依つて之が売買代金を連帯して賠償を求めるものである。

控訴人ら代理人の準備書面

一(1)  昭和三十三年八月十三日被控訴人から本件売買契約解除の申込があつたので山本清重を交え話合つた結果山本が控訴人等との本件木材の売買契約を解除し直接被控訴人に三十四万円を支払うことを条件として控訴人等も被控訴人との売買契約を解除し金十三万円を分割して支払う(分割の割合は追て明かにする)ことを約した。然るに山本は承諾しながら支払わないので控訴人等も支払義務はない。若し山本の支払を条件とすることが認められなければ、各売買契約を解除し山本が三十四万円控訴人等が合計十三万円を支払うことを約したのである。

被控訴人主張の如く被控訴人と控訴人との間丈で契約を解除し控訴人等が連帯して四十七万円の支払を約したことはない。

(2)  然しながら契約解除があるとすれば被控訴人は控訴人等と山本に本件売買の対象たる木材を十三対三十四の割合で返還するか(控訴人主張の如き解除の場合)又は全部控訴人等に返還すべきである(被控訴人主張の如き解除の場合)。然るに被控訴人は木材の引渡を受け保管中唐木田に山を伐られ返還出来なくなつたのであるから木の価格四十七万円を返還すべきであるから控訴人等の支払うべき額と対等額に於て相殺する。少くも同時履行の関係にはあると信ずる。

二 訴外唐木田隼人の本件木材に対する権利は柳沢忠頼の子忠明が木材の所有者忠頼に無断で行つた無効の契約に基くものであるから被控訴人は当然木材の伐採が出来た筈であるのに被控訴人は明認方法も施さず適当なる管理を施さなかつた為唐木田に山を伐られたので之は全く被控訴人の責任であり、控訴人は伐れない山を売つたことはなく従つて債務不履行の責任はない。

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